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FFXIのプレイ日記。放浪ネコのSSお気楽更新
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ヘタレやさんの小説コーナー

旧ブログから、三部いっぺんにうpしまふ
長いです、自分でも長すぎるとへこんd


************************************



はじまりは闇だった。



何も見えず、何も聞こえず、自分が何処にいるのかさえ、わからない
声も出せず、身動きできず、ただ闇の中を浮遊する
そんな感じだった

 俺は誰だ…

 俺は、何をしていた……

ゆっくりと記憶を引き出そうと目を閉じる
いや、はじめから開けていたのかさえわからない

けど何かのきっかけにはなるはずだ
ゆっくり、ゆっくりと記憶の糸を引き出していく
聞こえるのは荒々しい雄叫びと、悲鳴
武器と武器の激しくぶつかりあう金属音

 そうだ、俺は戦に出ていた…
 多くの軍勢に囲まれて……目の前で何人も殺されて………

何度倒しても現れ続け、街に押し寄せる闇の王率いる獣人たち

肉が裂け切れる嫌な音、辺り一面に飛び散る鮮血
地に伏せ、血を流し苦痛に満ちた顔で痛みに叫ぶ仲間

それを容赦なく踏みつけ、突き進む獣人の群れ
戦に出ぬ老人や、幼子たちまでも巻きぞいにして

そんな時、オークに追われ逃げ惑うおさない姉弟を見つけ
ボロボロの身体で武器を抜き、奴らの注意を引きつける

しかし、そこまでの記憶しか思い出せない


 ああ……そうか……


 俺も………


 死んだのか………


なぜか死んだという感覚がいまひとつわからないが
きっと、こんな闇の中に彷徨いつづけてから
あの方のところへ行くのだろう

 ……アルタナ様……
 今………貴女のお側に……

そう願うと
俺の意識は、また闇の幕をゆっくりとおろした

 
1:運命

「う……」

身体が痛い、痛いというより重い…
ここはどこだ…

柔らかいベッドの上だということだけはわかる
しかし、俺は死んだ…そうか、ここは天国か

そんなことを思い、眩しさに負けそうになりながら目を開ける
だが、そこはいつもの見慣れた部屋だった
ただ少し違うのは、自分のではないということ

ゆっくりと起き上がり、周囲をうかがう
落ち着いた部屋の飾り、チョロチョロと水の流れ落ちる音
ベッドの側にある木製のテーブルには茶器が一式
対面には生活用品が入っているであろうカップボードやアルアモール
ログハウスのような部屋の上部にある窓からは、優しい光が入り込み
その光の下には満開に咲いた花の植木鉢が幾つも並んでいる

「…」

ここはどこだ、俺はどうしてここにいるんだ
俺は死んだのではなかったのか!?

「気がついたのか」
混乱と格闘している最中、突然かけられる声
驚いて顔を上げると、そこには女、いやミスラが一人
幾分の苛立ち顔で立っていた

チュニックを着ていたので顔まではよく解らなかったが
彼女らの種族独特の長く美しい茶色の尻尾がそれを象徴していた
「1週間だ」
はじめは、ぶっきらぼうにいい放たれる言葉の意味が解らなかったが
しかし、すぐにそれが自分がここにいた時間だということを理解した
「あ…」
俺は『あの』と言いかけて、何だか自分の声が掠れていることに気がつく
「ん…ん…?」
喉を押さえて何度か咳払いをしてみるが、声はなかなかでない
俺がそんなことをしているのを不審な目で見ていた彼女は小さく息をつくと
棚から小さな子瓶を取り出し、サジにすくって俺に差し出す
「喰え」
今度は俺が不審な顔をする番だ
いきなりこんな怪しい変な緑色の物を差し出されて
はい、そうですかと喰えるものか、おまけに物凄く変な臭いもする
「喰え…毒などではない、ミスラ族に伝わる万病薬だ」
「う…」
それでも口を開こうとしない俺に対して
彼女は再度息をつき、手を伸ばすと俺の鼻をギュッとつまみ上げた
「うぁ…うぐっ」
突然の彼女の行動に抵抗する隙もなく
苦しくて口を開けると同時に、サジが口に突っ込まれる
口の中に奇妙な臭いが広がった
「おぇっ…うげぇ…」
「暴れるな、喉に刺さるぞ」
そんなことを言われても無理だ
数秒の抵抗の末、俺はミスラを突き飛ばし口の中のサジを吐き捨てた
「うえっ…てめ……あ?」
喉を押さえてそいつを睨む、と同時に声が出るようになってることに気づく
「だから、薬だといっただろ…」
床に転がされたミスラは倒れたときに打ったのだろうか
後頭部を押さえムクリと起き上がった
「あー…すま、ん」
「……」
平謝りの俺に対し、無言で立ち上がるとミスラは表に出て行こうとする
「ま、待ってくれ!」
「…なんだ」
一刻も早くこの場から去りたいと言う顔をして、彼女はこちらを振り返る
「ここはどこなんだ?俺はどうしてここに居るんだ?あとはタブナジアはどうなった!」
「……」
そいつの顔が一瞬曇った、そんな気がした
「ここはウィンダス連邦国、お前はタブナジアからここに運ばれてきた」
ウィンダス連邦国…たしかミンダルシア大陸の南方にある国か
「そうか…それで、タブナジアは?タブナジア侯国は」
「…た」
何を言ってるのか、聞こえなかった
いや、それを信じたくなかったから聞こえないふりをしたのかもしれない
「な、なんだって?よく聞き取れなかっ…」
「タブナジア候国は落ちた!」
俺の声をさえぎるように、そいつはいい放った
「………」
「お前が、ここに運ばれた日…タブナジアは…血盟軍によって…」
唇を噛みしめ、うつむき加減で
「多くの仲間が、死んだ…私の姉妹も、奴らに…」

もう、言葉が出なかった

彼女が黙って表に出て行ったあとも
俺はしばらく放心状態で、ただシーツを力強く握り締めるしかなく

それから、長い時間が過ぎてしまった気がする
ベッドに潜り込み己が生き延びたことを、後悔し責め続けた
その間も、ミスラは俺の様子を見に部屋を訪ねてきたが
いつもいらぬ世話だと怒鳴りつけ、ドア前で追い返していた

そんなある日
「己を悔いるなら、なぜお前は動こうとしない」
いつもは無言で帰っていくミスラがドア越しに口を開いた
「そんなところにいつまでも閉じこもって、情けないと思わぬのか」
「…」
「そんな恥晒しな奴に思われる仲間も哀れだな」

ブツッと何かがキレた

ベッドから飛び起きてドアを開けると
そいつは丁度こちらに背を向け歩き出そうとしているところだった
「…てめぇっ!」
俺の声に驚き、振り向こうとする首根っこをつかみ部屋の中に引きずり込む
そのまま床に押し倒して殴りつけようと拳を振り上げた

「………」

絶対に抵抗する、と思った彼女はじっと俺を見つめてた
殴るなら殴れ、開かれた瞳は語っている
左右違う色の瞳、紅月と蒼月の二つの満月に似た美しい瞳

長い、沈黙

「どうした、殴らないのか」
それを破ったのは彼女だった
「…あ…すまない…」
拳を下ろし、俺はうつむく

自分が情けなかった、涙がボロボロとこぼれていく
頬を、顎を伝って彼女の顔へと落ちていく熱い涙
「ううっ…ああぁ…」
俺は声を上げて泣いた、自分の不甲斐なさが情けなかった

2:秘密

「名前、聞いてなかった」
どのくらい時が流れたであろうか
涙もすっかり乾いた俺にミスラは聞いてきた

涙の流れていた間、引き倒されたことも怒らず
ベッドに腰掛け俺の隣で何も言わずに居た彼女に、礼を言おうと俺は口を開く
「俺は…」
ふと、変な感覚に囚われる

俺は…誰なんだ

戦での記憶はあるがそれ以前が思い出せない
「どうした…?」
ミスラは不思議そうに首をかしげ、俺を覗き込む
大丈夫だと手を軽く上げながらも少し己自身は焦っていた
それでも、頭の奥底から記憶を必死に引き出す
俺がタブナジア候国で呼ばれていた名前
「M…」
頭の中に浮かんだ文字は、そのまま口から出ていた
「エム…?変わった名だな」
彼女は、ますます不思議そうな顔をした
「いや…これはコードネームみたいなものだ」
「コードネーム?」
そうだ、俺はMと呼ばれていた
バストゥーク共和国から派遣された血盟軍殺戮部隊のメンバーとして
タブナジア候国に送り込まれた1人だった

しかし、それ以上が思い出せない
どのような経緯で部隊に所属し、なぜタブナジア候国にいたのか
「大丈夫か?」
ミスラの声に我に返る
「あ、ああ……」
「顔色が悪い、茶でもいれよう」
ベッドから立ち上がると、彼女はカップボードからカップを取り出し
慣れた手つきで茶を入れはじめた

やがて、カモミールのやわらかい香りが部屋の中に広がりだす
心が少し落ち着いた、そんな気がした
「記憶が混乱しているのだな」
頭上から降ってくる声に、うつむき気味になっていた頭を持ち上げると
湯気の立つカップを差し出される
「……」
「タブナジア候国は、確かに落ちたかもしれぬ」
カップを受け取り、口にする
「しかし、まだ戦いは終わってはいない」
「……」
「お前ができること、まだ残っているのではないか?」
ベッドに再び腰掛け、彼女は俺に聞いた
そうだ、俺にできること
「仲間の仇を討つことではない」
自分の考えを見透かしたかのようなタイミングだった
「いや…俺は…」
「お前は、復讐さえすれば満足なのか」
もう、黙るしかなかった
カップを握る掌だけが、やけに力が入っていく
そんな俺を見ていた彼女は小さく息をひとつ、ゆっくりとついた
「まだ、これからの世界の先を知ることも見ることもできるではないか」
ベッドから立ち上がると、彼女は窓辺に行き表を眺める
外から聞こえる子ども達の声は、やけに騒がしく聞こえた
「……」
「お前には、自由がある………私と違ってな」
「…え?」
思わず、顔を上げた
俺の目には、少しだけ悲しげな表情の彼女が映りこむ
「今、何て…」
「そこまでだシルファ、おしゃべりが過ぎたな」

第三者の声に、俺の疑問はかき消された
ドアを見る、そこには鼻先が隠れるほどの深い面をつけたミスラと
その両脇を固め、俺を狙おうとする弓をつがえたチェーン装備の同種族の女2人
気配など全く感じさせなかった、いや俺の注意が足りなかったのだろう
「あ…」
怯えた声に彼女、いやシルファを振り返る
先ほどの穏やかな表情が一変、青ざめたまま数歩下がると震えだす
その手からカップが滑り落ち、床に砕けてカモミールティーが絨毯に淡いシミをつくる
「おい、大丈夫か」
側に寄ろうと近づく俺は、鋭い殺気に思わず身を引く
力強い羽音をたてた一本の矢が目の前を通過し、重々しく木の壁に刺さった
「触るでない、汚らわしいヒュームが…」
リーダー格であろうミスラがこちらを睨み、顎をしゃくる
残りの二人が小さくうなづき、シルファに近づくと座り込む彼女を無理やり立たせ
そのままドアの前に引きずっていく
「ごめんなさい…ごめんなさい……ごめんなさい……」
もはや、彼女の口からは謝罪の言葉しかでていない
「待てよ!彼女は何もしていない!」
「彼女…だと?」
引きとめようとする俺の言葉に出て行こうとしたミスラは振り返り、口元を歪ませた
「ふふ…はははっ!」
「何がおかしい…」
背に差してある不動に手を伸ばしつつ、ゆっくりと距離をとる
3対1では勝ち目は無いだろう、だがシルファを逃がすには十分時間を稼げるはずだ
「そうか、お前にはこいつが女に見えたか!」
くっくと笑いをこらえながら面のミスラはシルファのチュニックの裾を掴む
「見ろ!これでも女に見えるのか!」
掴まれた裾がグイッとシルファの顔近くまで引き上げられた
「!!」
俺は、愕然とする
唇を噛み、恥ずかしさでうつむくシルファの身体は色白で
本来、年頃の女にはあるであろう胸の膨らみや美しい身体の曲線は無く
「ついでに下も脱がしてやろうか?お前にもあるものを見れば満足かい?」
その言葉に、俺はもう何も言えなかった
ミスラ族には男が少ないことは知っていた、生まれても数十分、数百分の1の確率
シルファは彼女達にとって、その貴重な『男』だったのだ
「お前達行くよ、もうこの男に用はない」
言葉を失った俺に一瞥を向けると面のミスラはドアを開けた
「殺らないんですか、隊長」
「女ならとにかく、男だからね種族の『種』までは奪ったりはしていないだろう」
シルファは目の前で晒し者にされたことがショックだったのだろう
黙って女達に引きずられていったが、ドアが閉まる瞬間俺を振り返る
何とも言えぬその顔は、生まれついた自分の運命をしっている表情だった

やがて、その姿は狭まりドアが閉まる音とともに消える
シンと静まり返る部屋に、表で子ども達の騒ぐ声がさらに大きく響いていた

3.男

シルファが連れて行かれ、どのくらいボンヤリとしていたのだろう
気がつくと辺りはすっかり夜の帳を下ろし、虫の声だけがやけに耳を騒がしていた
窓からは月の光が差し込み部屋を薄暗く照らす

 何もできなかった

最後のあのシルファの何とも言えぬ笑みを見てから
俺の身体はパライズにあったかのようにジンジンと痺れ、声さえもでなかった

 俺は、無力なのか

目を閉じて深く、深く何度も深呼吸をくり返す

シルファがミスラ族にとって重要な男であり種族の種であること
儀式が終われば一生を国の中で過ごし、表に出ることさえ許されない身となってしまう

 儀式を行わなければ…?

儀式が行わなければ、シルファは表の世界に出られる
しかし、儀式だけあって警備は厳重だろう
無論、一人ではあのスピード重視の種族に太刀打ちできるはずもない

そこまで考えて
グウッと腹の虫が鳴った

 そういや昼間から何も食ってなかったな

腹が減っては何とやらだ
俺は立ち上がり、表に出ようとドアへと向かう
持ち主のいなくなった部屋はやけにガランとしていて
自分の歩く音だけがうるさく感じた

表は月明かりだけでも十分に歩けるほど明るく
白い満月が今日が光曜日だと教えてくれる

 同じ月をシルファを見ているのだろうか

それとも、もはや窓すらない部屋で膝を抱え時が来るのを待っているのだろうか

「くそっ!」
近くの木を思わず殴る
ミシミシと音をたて木は葉を揺らしたが、しばらくすると再び静寂を取り戻した

モグハウスから西に抜けると水区の連合軍キャンプ地に出る
タブナジアが落ち、クリスタル戦争も終わり少しづつだが国は活気を取り戻そうとしていた
水区のレストランは最近営業を再開したようで連日多くの人々で賑わっている

ドアを開けると、食欲をそそる良い香りが鼻を刺激した
レストランは、まだ戦場へおもむいている大人達のかわりなのだろう
数人の子どもたちが慣れた手つきで店内を動き、働いていた
その姿を見ると、まだ戦いが完全に終わっていないことを思わせる
「いらっしゃませニャ」
たどたどしい口調でメニューを持ってくるミスラの少女に腹に溜まりそうなものを注文し
俺はタルタル用の小さな椅子を横に退け、地べたに腰を下ろし息をついた

シルファを助ける、しかし一人では無理だ
色々試行錯誤するものの、一向に良い考えは浮かばない
「…っ!」
思わずテーブルを叩く、それと同時に後ろでガシャンと食器のぶつかる音がする
振り向くと先ほどの子ミスラが丸い目をますます丸くし、驚いた顔で立っていた
「お食事、ニャ」
「あ、ああ」
目の前にサラダやパン、焼き魚を置くと子ミスラはそそくさと戻っていく
 
 悪いことをしたな…

俺を遠目から見ていた彼女と目が合うと、怯えた顔でそのまま奥に引っ込んでしまった
気持ちを切り替えようとパンをむしり口に放り込む
パサパサとしているが空腹は満たされていく、焼き魚もサラダも十分に旨かった
それとともに思考も落ち着きを取り戻し、少しは冷静に考えられるようになっていく

「ここ、あいてる?」
突然、頭上から降ってくる声
「んぐ?」
パンをくわえたまま上を向く、長身の男が俺を見下ろしていた
「他、いっぱいでさ」
「あ、ああ…」
紫の甲冑、背中にはその長身と同じくらいの長さの槍
そして彼の肩には少し小柄の蒼竜
竜騎士だというのは一目でわかった
「おじゃましますよっと」
同じく椅子を退けると、彼の肩にいた蒼竜がそこに飛び降り翼を休める
「よく慣れてるな」
「ああ、こいつが生まれる前からの付き合いだからな」
思わず声をかけるとそいつはニヤリと笑った
先ほどと違う子ミスラが彼の注文を取り、厨房に引き換えしていく

ヘラヘラとした男は、この地の出身で俺と同じく大戦に出ていたらしい
はじめただの聞き役だった俺も、次第にコイツに気を許していき盛り上がった
からの酒瓶が増え、程よく酔いも回り話もだいぶ進んだ頃
急に偉く真面目な顔になった男は
「酷い世の中だ」
ギュッと酒の入ったグラスを握り、ポツリと言った
「え」
「みんな死んじまった、親父もお袋も友人も」
突然の話で理解できなかった、しかし大戦でのことかと思うと何も言えない
「唯一の希望も、あと少しで無くしちまう」
「……」
「お前のせいでな……」
男から静かに湧き上がる殺気感じ、酔いながらも後ろ手でゆっくり不動を抜く
「…」
「……」
嫌な沈黙の後、男は勢いよく槍を背から抜き取り俺の喉に突きつける
無論やられるつもりもないので、俺も不動で男の動きを封じようとした
ガキンッと鉄同士のぶつかり弾く音がレストランに響く
キャアと悲鳴が上がり、後ろで皿の割れる音が聞こえ他の客が騒ぎ出す
「お前のせいだ…お前のせいでシルファは…」
片手なのに凄い力だった、ググッと押され次第に槍先が近づいてくる
「シルファ…?」
「知らないとは言わせねえ…お前のせいで儀式が早まったんだ」
ギラギラとさせた目は先ほどのヘラヘラした感じの男とは全く違った
「待て、違う、話を・・・」
「黙れ!」
「うるさいよあんた達!!」
第三者の声とともに頭から水をかけられる
経営者と思われるタルタルの女性が水の滴るバケツを手に立っていた
「何しやがるババァ!」
突然の横槍に、竜騎士が怒りと槍の矛先を変えてタルタルに投げつけようとした
「やめろ!」
そう叫んだ瞬間、タルタルは素早く印を結び
「スタン!」
と、唱えた
もちろん強制静止魔法のため竜騎士の動きは止まり、憎々しげにタルタルを睨んでいたが
やがて足元をふらつかせて床に倒れこんだ
彼女は、睡眠魔法スリプルも重ねがけしていたようだ
「全く、店が再開できたと思ったらこんな連中ばかりだよ」
ブツクサと文句をたれながらタルタルが俺を見る
「すいません…」
「あんたはいいよ、被害者っぽいからね」
あきらめのため息を吐くとタルタルは大の字で寝ている男を指差す
「どうするこの男、警備隊に引き渡してもいいんだけど」
「あ、いや…」

結局、俺は数分後この大男を背負い店を出た
お詫びのつもりで多めに金を払おうとしたが、経営者は食事代のみしか受け取らなかった
「こんな世の中だ、お金は大切にしな」
にっこり笑って送り出されたものの、問題はこの男だ
モグハウスに連れていくわけにも行かない、ほっておくわけにもいかないだろう
それにこの男、シルファを知っていた
「まいったな…」
「キュウ…」
俺の横から心配そうな声がする、蒼竜だ
レストランでも騒ぎの間、俺を男とともに倒そうとする気配もなかったこいつは
ずっと小さな羽音をさせ、俺の横をついて来ていた
「お前もこんな主を持って大変だな・・・」
でかい図体を引きずり、やがてモグハウスと魔法学校へと続く十路地にあたる
天の塔へと続く石区への道は、先の襲撃で今も閉ざされたままになっていた
神子はウィンダスの民を思い、今も静かに天の塔で犠牲者達に祈り続けているという
「死者だけじゃなく、生者にも祈ってくれよ…」
背中からずり落ちてくる男を背負い直しながら魔法学校へと足を向ける
学校は奇襲以来、子ども達の声もなくただの資材置き場になっていた
「おい、起きろ」
肩の重い荷を地面に転がし声をかける
「う…」
頭を軽く押さえ男がだるそうに声をあげる
「いつまで寝てるんだ」
「ってぇ…っ!」
俺に気がついたヤツは、背中の槍を抜こうと後ろ手を回した
「!!」
奴の背には何もないはず、なぜなら俺の手にあるからだ
「残念だが、こいつはちょっと預かるぜ」
「くっそ…」
奴は憎々しげに俺を見つめ、そのままどっかりとその場にあぐらをかく
「あーもー、好きにしろ」
「ああ、そうしたいが先に聞きたいことがある」
「………」
無言で下を向く、何もこれ以上話す気もないという素振り
「お前、シルファを知ってるな?」
その名に奴が小さく反応したのを俺は見過ごさなかった
「お前、シルファの何を知ってる」
「……」
「俺はシルファを救いたいんだ…この国から連れ出したい」
ゆっくりと、男は顔を上げた
「それは、本気で言ってるのか……」
「ああ…」
再び下を向いた男は、やがて肩を震わせ
「あっはっはっは!」
と、顔を上げ大声で笑った
「そうかぁ、お前いい奴だったんだな」
「……」
唖然とする俺に、立ち上がった男が片手を差し出す
「んじゃ、同士ってことでよろしくな!」
多分今の俺は、ものすごい間抜けな顔をしているに違いないだろう
この男はとりあえず敵ではないのかもしれないが
とりあえず油断しないようにゆっくりと手を差し出す
男はガシッと俺の手を握った
「俺はファル、ファルシアーナ・K・コレッド、あんたは?」
「M…」
思わず名乗ってしまった
しかし男、いやファルは「ふぅん」と言ったきり何も聞かなかった

それからしばらく俺たちは探りあうように互いの話をした
俺は記憶をなくし、シルファの世話になっていたこと
シルファがそのせいで連れて行かれてしまったこと

ファルはシルファの幼なじみだった
当時病弱なシルファは、表に出ても長時間遊べなかったという
そんな彼のために、いつも外での話を聞かせていたらしい
それは、今から半年ほど前まで続いていたのだが戦争のためにファルは戦場に行き
シルファとはそれきりだったそうだ
戦から戻ってみればシルファは儀式のために連れて行かれ
明日の闇曜日の満月の晩に儀式が済んでしまえば
もう二度とウィンダスから出れなくなるという

「明日…?」
「ああ…もう少し遅れると思っていたんだがな」
ファルは一瞬だけ俺を憎々しげに見たが、すぐに一息ついてその表情を濁した
「シルファを軟弱なミスラの男のとこなんかにやってたまるかっつの」
まただ、ファルが言っていることがさっきから少しおかしい
どう考えても気になる点が一つだけあるのだ
「ファル…ちょっと聞いていいか?」
「ん?」
「お前シルファのこと、どう思ってる?」
「どうって…」
あぁもう赤くなるな、聞いた俺がバカだった
やっぱりコイツはシルファが女だと思っている
ばらしてもよかったが、協力者が居ないことにはシルファの奪還は無理だ
「そうか…ガンバレよ…」
俺はファルの肩をポン、と叩き空を仰いだ
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